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河邉有実莉

ここ数年は、LiSAとしての「終わり」にも悩んでいた——人生変えた『鬼滅の刃』

2020/10/15(木) 17:02 配信

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社会現象にもなった『鬼滅の刃』。同作アニメのオープニングテーマ『紅蓮華』を手がけたロックシンガーLiSAの環境も大きく変わった。これまでも数多くの人気アニメ作品でテーマソングを担当、アニメファンの間では“ロックヒロイン”として高い支持を獲得していた彼女だが、ここ数年は「LiSAとしての終わり」を模索していたとも話す。もうすぐデビューから10年を迎える、彼女の見据えるものとは。(取材・文:西廣智一/撮影:河邉有実莉/Yahoo!ニュース 特集編集部)

全く想像していなかった状況に

昨年からの『紅蓮華』の大ヒット、そしてますます盛り上がる『鬼滅の刃』人気の渦中にいるLiSA。どこにいてもサビの「どうしたって〜」が耳に飛び込んでくる、そのくらいの勢いを感じる。

「こういう状況は全く想像していませんでしたけど、私自身は何も変わっていなくて。LiSAという活動の中で、自分の伝えたいこととアニメ作品をリンクさせられるようになってきたというか。この10年の経験を経て、自分の楽曲制作の仕方も整ってきた中で出会った『鬼滅の刃』という作品に対して、そこで待っていてくれる人たちに対して、アニメを制作する皆さんの思いを連れて精いっぱいいいものを作るぞという気持ちだけなんです。それをみんなが好きと言ってくれて、本当にすごい幸運に偶然巡り合ったという気がして」

昨年の紅白初出場もそういった事象の副産物だったが、実はそれ以前からうっすらと意識はしていた。

「紅白への出場は私自身、LiSA人生でまさか、と思った出来事でした。でも『Catch the Moment』(2017年2月発売のシングル)あたりかな? 『みんながLiSAと一緒に紅白に行きたがっているぞ。もしかしたら自分の夢の中に紅白という場所があるのかもしれない』という希望を持つようになったんです。だから、みんなと歩いている途中にすごくいいご褒美をもらったというか、そんな感じがします」

紅白で得たものは、彼女自身の今後の生き方にも反映されていく。それを凝縮したものが、最新アルバム『LEO-NiNE』だ。この新作を携え、LiSAは約半年後の2021年4月20日にソロデビュー10周年を迎える。

「ここ数年はLiSAとしての終わりはどこなんだろう、と悩んだりしながら走っていたところがあったんですけど、紅白出場、というボーナスをいただいた今はみんなと生きる未来が描けるようになった。そこから『LEO-NiNE』へと辿り着いて、本当の意味でのこの先のLiSAの遊び方、LiSAを生き続けさせるための方法が見つけられたと思うんです。自分の音楽を聴いて遊んでくれる仲間がたくさんいるという、この幸せをたっぷり味わいながら、この先も今できることを精一杯やっていこうと思います」

100万円ためて上京、アニソンから夢をつかむ

「アニソン」のイメージが強いLiSAだが、そのルーツはパンクロックにある。20歳までを故郷・岐阜で過ごした彼女は、高校時代からパンクロックバンドのシンガーとして活動を始める。

「歌うことが好きというよりも、みんなと一緒に音楽をやることやそのバンドが集まる空間、ライブハウスが好きっていう感覚でした。で、あわよくば自分たちのバンドでデビューできたらいいな……ぐらいの漠然としたイメージで。いま考えると、すごく甘い考えでしたね(笑)」

高校卒業後も、「私は歌しかない。自分のバンドで食っていくしかない」と活動を続けるが……。

「ほかのメンバーにとってバンドはただ楽しむだけの場だった。そういう方向性の違いで(笑)、20歳のときにバンドは解散。それで『これが最後のチャンスだ』という覚悟を持って、100万円ためて東京に出てきたんです」

東京で一旗揚げる……その思いとは裏腹に、100万円の貯金は2カ月で底をつく。平日昼はアルバイトを三つ掛け持ちして生活費を稼ぎ、夜にバンド練習、土日はライブ活動という日々を送る。

「それはそれで楽しかったですよ。地元で活動していた頃とは違う、自分を売っていくためのバンドの活動の仕方を学べたから。ライブハウスへのアポの取り方から対バンの組み方、ツアーのやり方、物販の在庫管理までバンドを運営していくための経験をたくさん積めましたし、よりたくさんの人に聴いてもらうには、受け入れてもらうには何ができるんだろうという思考のもと活動していたので、苦労とは思いませんでした」

その合間に、数多くの音楽オーディションにも足を運んだ。その中のひとつがテレビアニメ『Angel Beats!』(2010年放送)のオーディションで、彼女は劇中バンド“Girls Dead Monster”の2代目ボーカル・ユイ役の歌い手に抜擢。パンクシーンからアニメソング界隈へと転身を果たす。

「私はロックやパンクが好きで、ライブハウスでは『一番後ろで腕を組んでいるお客の手を上げさせてやる!』みたいな意気込みで歌っていた。それに対してアニメのお客さんは自分の好きな作品に関わる人たちを無条件で受け入れて、敬意をもって接してくれる。楽しみ方や関わり方が全然違うのを、すごく感じました。初めてイベントに出演したときも、私が歌う回はまだ放送されていないのに最初から『LiSAーっ!』と呼んでくれるんです。それこそ一番後ろの後ろまで人がいっぱいいて、その一番後ろの人たちまで手を上げて楽しんでくれている姿を見て、『私はこの人たちに精いっぱい、愛情や感謝を返すということをやっていきたい!』と決意しました」

底辺から突然絶好調になった感覚もあった

上京から約3年を経て、2011年4月20日にシンガーLiSAとしてソロデビュー。『Fate/Zero』や『ソードアート・オンライン』といった人気アニメのテーマソングを通じて、次々とヒットを飛ばす……こう書くとデビュー直後から順風満帆のようにも映る。

「底辺から突然絶好調になった感覚もあったので、その幸せを失うことに対する臆病さもあったし、『私はまだ信用してもらえていないから、この人たちにできることをもっとやらなくちゃ』みたいな強迫観念もあって、ただただ必死でしたね。その感覚は活動を重ねるごとに少しずつ払拭されていきましたが、本当の意味で完全払拭されたのはつい最近のことかもしれません」

つまずきもあった。大きな目標のひとつだった初の日本武道館ワンマンライブ(2014年1月3日)で、序盤で喉を壊すハプニングに見舞われたのだ。

「1曲目で『おや?』と不調を感じて、3曲目には本格的に声が出なくなっていました。あの武道館の2時間半は、一瞬一瞬をスローモーションで思い出せますよ(苦笑)。それまでは、みんなの期待を裏切らないことで自分に花丸をつけられると思っていたし、完璧なLiSAであることが正解だと信じて進んできたので、『自分の完璧じゃない部分がバレた』ってことに対しても失望が大きかった。でも、ライブ後半になると会場のみんなが『一緒にこの場を乗り越える』という意思を固めてくれたというか、見守ってくれている感覚をステージの上から感じて、『ここに残ってくれる全員に対して精いっぱいやろう』という気持ちで乗り切りました。武道館が終わった後は『私、何てことをしてしまったんだ……』って1週間くらい泣き続けたんですけど、『あの武道館に最後まで残ってくれた人たちを裏切らない自分でいよう』という思いを込めて『Rising Hope』という曲を作りました」

今ではライブには欠かせない彼女の代表曲のひとつ『Rising Hope』は、武道館公演から4カ月後にシングルリリース。テレビアニメ『魔法科高校の劣等生』のテーマソングとして制作されたものだが、歌詞にはアニメのストーリーをなぞりつつ、武道館公演を経て感じた思いが綴られている。

気持ちは『紅蓮華』以降も変わらない

この曲が起爆剤となり、LiSAの知名度はさらに上昇。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』といったロックフェス参加や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)など地上波の音楽番組にも出演し、アニメシーンを飛び越えて活動の場を広げていく。

「そういう一つひとつの私の挑戦に対してみんなが『絶対に大丈夫!』とついてきてくれて、後押ししてくれたから全部乗り越えられたんだと思います。なかでも、ロックフェスではお客さんはもちろんなんですけど、出演しているバンドマンや昔からの先輩たち、その仲間たちが受け入れてくれたことが大きくて。その人たちが私のことを『LiSAちゃんは仲間だから』って大きな声で言ってくれたから、彼らを信頼しているファンの人たちも私のことを信じてくれて、さらにいろんなことに挑戦させてもらえたのかなと思います。だからこそ、そこに泥を塗っちゃいけないですし、さらに自分自身を裏切らないで活動していきたいなと思うようになりました」

“LiSAッ子”と呼ばれるファンとの信頼関係を大切にしながら、一緒に何かを作って楽しんでいく姿勢は、『Angel Beats!』を通じてアニメファンの前に立った頃から今日に至るまで一貫してブレない。

「それこそパンクバンドでやりたかったことなんですよね。自分の好きな音楽を一緒に楽しんでくれる人がいっぱいいるといいな、ということが根底にあるので、そこでお金を稼ぐとかスターになるということは後づけで。その場で喜んでくれる人がいるという環境が、とても幸せなんです。それこそ今はいろんな垣根がなくなりつつあって、みんながアニメを見てくれる時代になったし、抵抗なくアニソンを楽しんでくれる時代になった。すごくいい時代に私はアニメ作品と関わるお仕事をさせてもらえているなと思いますし、その気持ちは『紅蓮華』以降も変わりませんね」

LiSA (リサ)
1987年岐阜県生まれ。 2011年ソロデビュー、以来数々のアニメ主題歌・劇中歌を担当。今年10月に5枚目のオリジナルアルバム『LEO-NiNE』と17枚目のシングル『炎』を同時リリース。『炎』は、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌。


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